自宅に帰ってからもドキドキ感は消えなかった。
お風呂にゆっくり浸かっていられなかった。落ち着かない。
手につかない。そんなに大変なことを私はやろうとしているのか。
何も考えていないのに、胸のあたりがモヤモヤでもないんだけど、なんかいる。
確実になんかいる。それだけはわかる。
へんな、動物がいるのか?
あれは篝だけにつくものじゃないのか?
そんなことも考えてみた。ただのワクワク、ドキドキの類だ。今まで経験してこなかったから、今になってあせっているのだ。
こんな日は早く寝てしまおう。と、布団の中にもぐりこみ、目を閉じたが、この胸のの中のものが寝かせてくれない。
寝返りを何回うったろう。
腰と背中が痛くなってきた。
「ああああああ、寝れない」
起きた。
ベッドから出て、ペットボトルに入っている水を一気に飲んだ。
「プハア」
美味しかった。
一瞬、胸の中のものが落ち着いた。
が、すぐに暴れだした。
「やばい!これじゃまた寝不足になる」
このままじゃあさってまで持たない。
そのとき電話がなった。篝からだ。
「陽子ちゃん」
「どうした?」
「寝れないよ」
「篝も」
「も、ってようこちゃんも」
「うん・・・・」
「まだ、一日あるのにね・・・・」
本当だ。このままじゃ、本番前に潰れちゃう。
ふと思った。
過去の人たちも、みんなこのプレッシャーと戦ったのではないかと。
そして、ある人はそれに押しつぶされてしまった。
だから、公演が失敗した。
ということは、最後は自分との戦いだって事だ。
異次元だの、虫だの、宇宙昆虫だの関係ないんだ。
今、はっきりと分かった。
原因が分かれば、逃げることもしなくてすむし、受け入れさえすれば解決できる。と、思った。
「大丈夫だよ。私たち、頑張ったじゃない。ねっ」
「・・・・そうだね・・・・うん、そうだね・・・・」
「私を信じて。私は篝を智恵理を紅愛を紗綾を信じるから」
「私も陽子ちゃんを信じるよ」
その声は、すごく暖かく心の中に染み渡るようだった。
篝の電話を切った後、智恵理、紅愛、紗綾の順番で連絡がきた。ちなみに紗綾はテレパシーだったけど。
みんなに篝とおんなじことを言った。
ただ一言。
「信じてる」
とだけ。
みんなの声が心に染み渡っていく。
胸の中のものが暴れなくなった。
よし、今だ。
ベッドにもぐりこんだ。




つづく