やはり、夢だった。
目を覚ましたときには、篝はまだ寝ていた。
だが、篝の手は私の頬を撫でていた。
篝の心がそのまま伝わったのかもしれない。
(なに、恥ずかしいこと考えてるんだろう)
ちょっと、顔が赤くなった気がした。


 朝、篝の熱は下がった。
だが、今度は私が寝不足という睡魔と闘わなくてはならなかった。
こいつは相当手ごわいのだ。
「大丈夫だよ。寝ても」
ピンピンした篝が言う。
「だって、目の下に隈作ってもしようがないでしょ」
「いいじゃない」
紗綾が追い討ちをかけてくる。
「今日よりも、明後日のほうが大事なんですから」
「そうそう、本番当日には、万全でいてもらわないと」
誰だ。昨日寝込んだのは。
みんな、自分のことは棚に上げている。
「そういうものよ」
紗綾が言う。
もう、反論する気にもなれない。
反論するぐらいなら、寝てしまおう。そう思った。
起こされるまで全く気づかなかった。
ホームルームが終わり起こされるまで一度も起きなかった。
弁当の時間すら寝てしまっていたのだ。
「・・・ありえない・・・」
一番驚いていたのは篝だった。
「はじめてだね。陽子ちゃんがあんなに寝てるの」
驚いているのは私もだ。
徐に弁当を出し、食べ始める。
「なに、今から食べるの?」
「食べてないから、お腹減っちゃって」
と言いながら、黙々と食べた。
やっぱり、お母さんのお弁当はおいしい。
(ありがとう)


 放課後の練習は、さくっと終わらした。
明日の通し稽古と明後日の本番のために今日は軽めにしようと、櫻田先生が提案した。
ワクワクし始めている。
みんなどことなく落ち着かないみたいだ。
「まだ時間はあるんだから。そんなに緊張しないの」
桜田先生が言う。
「そんなことはないと思うけど」
やっぱりおかしい。先生の言うとおりだ。



つづく