真っ白い霧があたりを埋め尽くしていた。
誰も、何もない。
何の音も聞こえない。
初めて見る景色だ。
足元も全く見えない。視界はほぼゼロといっていい。
じっとしているのは怖いので歩いてみることにした。
少しずつ、摺り足のように一歩、一歩足を出してみる。
途中から、障害物はないだろうと思った。
根拠はない。
なんとなくそう思った。
しばらく歩いた。と、思う。
時間の感覚がない。
これって、夢。
頬をつねってみる。
痛い。
紗綾の仕業かと思い、呼んでみるが、返事はない。
なんなんだここは。
寂しさと怖さが身体中に溢れてきた。
そして、ガタガタと身体が震えだした。
「なによこれ・・・・」
大声で叫んでみた。
声がどこかに吸収されていくみたいだ。
「だれか?だれかいない!」
声が響き事もなくどこかに吸い込まれていく。
涙が溢れてきた。
とめどなく溢れてきた。
次から次へと目と鼻から涙が流れていく。
心細いとはこういうことだ。と、冷静に考える自分がいた。
人間って変わっている。どれが今の自分なのか・・・・
たぶん、すべて自分なんだ。
悲しんでる自分。
大声を出している自分。
ガタガタと身体を震わせている自分。
涙を流している自分。
冷静に分析している自分。
どれも自分自身なんだ。
一度にこれだけの自分がいるのだ。
少し、気持ちが落ち着いてきた。
もう一度あたりを見回した。
まだ、白い霧に覆われていた。
何かの気配を感じた。
誰かいる。
体中のアンテナを立ててみる。
確かに、誰かいる。
目を閉じる。
そっと、誰かの手が頬を撫でる。
目を開ける。
誰もいない。
また目を閉じる。
誰かが頬を撫でる。
その手の感触は暖かさを感じる。
心のぬくもりだと思う。
これがもしかして・・・・
この暖かさが・・・・・
篝が、犬いや私に求めていたものかもしれない。
この暖かさを伝えればいいんだ。
そっと目を開ける。
そこには、篝がいた。
笑顔の篝だ。
「ありがとう」
篝が言う。
「ううん。こっちこそありがとう」
篝の手のぬくもりは頬に心に残った。




つづく