翌日、クタクタになった疲れは取れないまま登校した。
授業はいつも以上に身が入らなかった。
篝はいつもの通りで授業中は筆箱を枕に熟睡していた。
放課後。
6時間目が終わると篝はどこかえ行った。
ホームルームにも出ず、部室にも居なかった。
待つこと15分。
篝がプリントを持って現れた。
「はい」
みんなに配られた。
台本の差込みだった。
篝が幻のページを新しく甦らせたのだ。
そこには、犬の心の声として話が書かれてあった。
「えっ!」
驚いた。
「これを伝えるには犬しかないの」
篝は大真面目だった。
読んでみる。
よく出来ている。
「なるほどね」
紗綾が言った。
「そうか・・・・」
智恵理が頷いた。
「・・・・」
紅愛は黙っていた。
あとは私だ。
「・・・・おもしろい・・・」
「ほんと?」
「うん」
答えた。
篝は満面の笑顔だった。
「徹夜したかいがあいました」
「授業中は寝てるけどね」
「まあね」
みんなが笑った。
そこにあったのは、犬が、犬だから、
人間が忘れた思いやる心をつたえる意味があるように書かれている。
本当によく考えたんだろうという、何度も描いては消し、
消しては書いたあとが残っていた。
わたしにとっては、ワン以外の初めての台詞が結構重いものになってしまった。
もしかして、重要なポイントを篝は私に作ってしまったのかもしれないのだ。
改めて、読み返してみる。
やはり、犬が、犬の心の声が台詞としてそこにはある。
稽古が始まった。
差込みの少し前からはじめた。
ワン以外のはじめての台詞。
声がうわずってしまった。
大笑いされてしまった。
「なに、やってんの」
篝が大声を出した。
「ごめん。ちょっと緊張して」
「しようがないよ。ワン以外の初めての台詞なんだもん」
紗綾がフォローしてくれた。
みんなが大笑いしてくれたおかげで、
極度の緊張から解き放たれた感じがした。
「よし、もう一回やってみよう」
篝が言った。
それから、時間を気にせずに稽古をした。
「あなた達、いつまでやってるの?」
櫻田先生が慌てて入ってきた。
「もう、外は真っ暗よ。今日は帰りなさい」
「ええ、もう少しだけ」
「だめ!」
櫻田先生は智恵理から状況は報告されているはずだ。
それは裏の顔。
表の顔は女子高の女教師。
学校内部でのしがらみやオトナの事情を
もろもろ抱えているに違い。
だから、私たちに、ごもっともな正論をはくのだ。
先生の顔を立てて帰ることにした。
今日は相当疲れた。
早く帰ってお風呂に入りたい。
これが一番の私の気持ち。





つづく