放課後。
ストレッチをしているところに篝が遅れて入ってきた。
「ねぇ、みんな聞いて!」
篝がかしこまって言った。
「ええ、この度、定期公演の日取りが決まりました!」
来た!この日がやっと来た。
「いつですか?」
智恵理が言った。
「早く、知らせないと」
紅愛(愛葵)がぼそっと言う。
紗綾は知っていたのか、ニコニコして聞いていた。
「五月二十三日だよ」
「その日は何だっけ?」
「オリエンテーションの日。特別公演だよ」
「なんかドキドキするね」
智恵理が顔を紅潮させ言った。
紗綾はニコニコしていた。
「あの・・・顔を洗ってきていいですか?」
紅愛(愛葵)が言った。多分、アクアと本物の紅愛に連絡するためだろう。
紅愛(愛葵)が出て行った後、櫻田先生が入ってきた。
「なに、みんな嬉しそうね?」
「公演の日取りが正式に決まったんです」
智恵理が言った。
不思議な光景だった。
もともと智恵理の方が上司だったはず、
それが今の智恵理はただの高校生に見えた。
なぜか、そんな智恵理を見て櫻田先生も嬉しそうだった。
ふたりの関係はどうなったのだろう。まだそれは、聞くに聞けないでいた。
「さあ、これからが正念場だからね。もっと気合入れてがんばろう」
篝は満面の笑顔をみんなに向けた。
言うまでもなく、その日の稽古は熱いものになった。
みんな今までと気合の入り方が違っていた。
篝はみんなの動きを一からチェックした。
智恵理はメガネについた汗を拭うこともせずに必死だった。
紅愛(愛葵)は台詞の確認を重点的にチェックしていた。
紗綾はあいかわらずニコニコしているだけだった。
私は、みんなの補助するのがいっぱい、いっぱいだった。
それに、犬だから台詞を覚えると言う作業はいらない。
なにせワンしかないから。出番も一箇所だけ。
稽古が終わったときみんなヘトヘトに疲れていた。
「なんか、気持ちよかったね」
智恵理が言った。
そこにはTVドラマに出てきそうなさわやかな雰囲気と笑顔があった。
「うん・・・・じゃ、帰ろうか」
篝が言った。
時計の針は七時を回っていた。
着替えて戸締りをしていたら八時近くになっていた。



つづく