部室では篝がはしゃいでいた。
「これで、みんな揃ったね」
いつもより、ちょっとだけ甲高い声を出していた。
紗綾、智恵理、紅愛(愛葵)もニコニコ顔だった。
稽古が始まった。
今日は、顧問の出雲先生と櫻田先生も集まっていた。
これは、智恵理と何か関係があるのかもしれない。
そんなことはお構い無しに篝は、一人ひとりに指示を出していく。
誰も文句も言わず、篝の指示に従う。
犬の出番は後半なので、ただじっとその光景を見つめているだけだった。
“ドッキン”
心臓が大きく鳴った。
“ドッキン”
また鳴った。
これは、なんなんだろう?
“ドッキン、ドッキン”
段々、鳴る回数が増えていく。押さえられなくなってくる。
息が荒くなってきた。それでも“ドッキン、ドッキン”と鳴る。
それを見ていた紅愛(愛葵)が声をかけてくれた。
「どうしたの?顔色が悪いよ」
「う、ううん・・・・・」
「陽子ちゃんどうしたの?」
紗綾までが近寄ってきた。
(心臓が・・・・)
テレパシーを使う。が答えてくれない。
前にも言ったが私にはテレパシーを使う能力はない。
「大丈夫?」
紗綾は普通に声をかけてきた。
目を大きく見開いていた。声が出なかった。これじゃ、病人だ。
櫻田先生に連れられて保健室へ行った。
ベッドに寝かされた。
“ドッキン”はまだ治まらない。
目は見開いたまま、天井を見つめていた。
水を一口飲ましてもらった。
口の中から食道をつたわり胃の中に入っていくのを感じた。
“ドッキン”は治まらない。
それどころか、胸を締め付ける感じがした。
(なんなの?)
その時、紗綾の声が聞こえた。テレパシーだ。
(大丈夫だよ)
(本当?)
(心配しなくてもすぐに良くなるから)
(本当ね?)
(私を信じて)
紗綾の言葉は有難かった。
(ゆっくり、目を閉じてごらん)
紗綾に言われるままゆっくりと目を閉じてみた。
一瞬だけ真っ暗になった。
すると、遠くから一筋の光が見えた。
それは徐々に広がり次には真っ白い世界となった。
フワフワした感覚にもなった。身体が浮いている。
(なに?ここはどこ?)
紗綾は答えてくれなかった。
段々と意識が薄れてきた。
このまま、眠ってしまうのだろう。
目はちゃんと覚めるのだろうか・・・・。と思っているうちに深い眠りに落ちた。



つづく