早朝。
表に出ると篝が待っていた。
遠足以外では初めてのことだった。
いきなりペースが速かった。
篝はいい意味で自分を追い込もうとしているみたいだ。
篝はそれでいいのだが、私は付いていくのが精一杯だ。
篝のはっきりした気持ちは分からないが兎に角真剣だ。

朝練を二時間みっちりした後学校に行った。
初日もあってか身体が悲鳴を上げていた。
今までの稽古で身体を動かしていたのは何だったのだろうと、
数学の公式を思い出す前に改めて考えてしまった。
授業中、篝は当然のことながら熟睡していた。
ちなみに智恵理と紗綾は休んでいた。
気に為らないと言えば嘘になる。
だが、今はどうすることも出来ない。
なにをすればいいのかも分からない。
篝の気持ちが前を向いていればアクアに超災害はおこらない。
だから、今出来ること、今しなきゃいけないことをするだけだ。
放課後。
篝、紅愛と三人での練習が始まった。
紅愛も更に気合が入っているように見えた。
篝の思いが伝わっているのだろう。
トップの波動は下に繋がると、どっかの偉い先生が言っていたのを思い出す。
人ってある意味面白い。
やっぱり、朝練が堪えている。
足が急にワナワナしはじめた。
「ごめん」
と輪の中から外れる。
「なに?もう根を上げるの」
篝は冷静に言う。
「もう少しがんばってくれないと・・・・」
「ごめん・・・・」
水を少し飲んだ。
本当はガブガブといきたいところだがお腹がタプタプになっても困るから我慢した。
篝と紅愛も休憩に入った。
汗を拭う紅愛からいい匂いがした。
どこかで嗅いだ記憶がある。
頭の中を検索してみると愛葵が出てきた。
やはり双子の姉妹、同じものを使っているのだと思った。
「ねぇ、香水つけてるの?」
紅愛に聞いてみる。
「いいえ。どうして?」
「この匂い。香水かなって思って」
紅愛が自分の匂いを確かめた。
「愛葵さんと同じなの、その匂い」
と、篝に聞こえないように言った。
「ばれたか」
「えっ・・・・?」
「実は私、愛葵なの」
「えええええええ」
ビックリして叫んでしまった。
「なに、どうしたの?」
当然、その声に篝が反応した。
「なんで?」
篝のことは気にせずに訊ねてしまった。
「ねぇ、ねぇ、どうしたの?」
篝が更に気になったのか、近寄ってきた。
「いや、ねぇ、紅愛がダイエットしてるっていうから、ビックリしちゃって」
「本当?」
篝が聞いた。
「うん」
それから、なんやかんや色々言って篝を誤魔化し、二人でトイレに逃げた。
よくあるトイレでのシチュエーション。但し、一人はパラレルワールドの人間。
「本当に愛葵さん?」
「ええ」
「紅愛は?」
「今、アクアに帰っているの」
「それで、愛葵さんが変わりに・・・・」
「そういう訳でもないんだけど、紅愛が休んじゃうと部員が居なくなるでしょ。
そしたら、篝さんにどういう影響があるか判らないから・・・・
それとちょっとこちらの世界に興味があったし」
うれしそうに愛葵は話した。
「でも、紗綾さんのことは聞いています。あれから一度も学校に来ていないと」
「そうなんです」
「実は、お二人を転送した後、紗綾さんは居なくなっていたんです」
「いなくなっていた」
「はい。色々探したんですが、どこにも・・・・」
「そうですか」
「でも、ご病気でお家にいらっしゃるとか聞きました。安心しました」
そうでもないんだけど。
あれは紗綾ではないと、私だけが思っている。
だって、テレパシーが通じないんだから。
って愛葵さんに言ってもしょうがない。
「愛葵さんはいつまでこちらに?」
「紅愛の用事が済むまで」
「何しに帰ったの?」
「・・・・ごめんなさい。それはちょっと言えないの」
いいよ。そういうことには相当慣れっこになってるから。
「そう」
遅くなると、篝の機嫌が悪くなるので、居る間は楽しもうとトイレの会話を終わらせた。
戻ってみると、帰りが遅いと篝はちょっと拗ねていた。
後で聞いたのだか、愛葵が稽古についてこれていたのは、
紅愛が逐一報告をしていたからだった。
また、それを愛葵はひとりで練習していたのだ。
なんと涙ぐましいことを、このひとは。
いくら国の為とはいえ、頭が下がる思いがした。
篝は別人だとは気付いていない。
愛葵は見事に紅愛を演じていた。
ということは芝居っ気は元々あるってことか、何気に納得してしまった。
「今日はここまでにしとこうか」
満足そうに篝がいう。
「うん、そうしよう」
「陽子ちゃんは私と居残りだよ」
「ええええええええええ」
「衣装やら小道具の相談をしなきゃならないから」
「じゃ、私も残ります」
と愛葵じゃなく紅愛が言った。
「ううん、いいの。これは二人に課せられた義務だから」
(いつから義務が発生したのかな?)
「そうなんですか・・・・」
(愛葵さん納得するところじゃないって)
「それに、陽子ちゃんはお隣だから学校じゃなくてもいいの」
「なるほど」
納得するのが早い気がするが仕方がない。
着替えを終えると家路についた。
篝は後で連絡すると言って家の扉をバタンと大きい音を鳴らし入っていった。
騒がしい乙女だこと、ため息をついた。




つづく