日曜日の学校。部室棟。静まり返っている。
グランドから万年地区予選3回戦敗退のホッケー部員達のゴッツイ声が聞こえてくるだけだった。
部室に入ると紅愛と智恵理がストレッチをしていた。
「なんだ!みんなやる気満々じゃない」
篝は大喜びだ。
「あれ?紗綾ちゃんは?」
「連絡取れないんだ」
「そうか・・・・しょうがないよね。今日は日曜日だし急に召集かけたし・・・ってどうして捕まらないの。
陽子ちゃん。練習に、稽古にならないじゃない」
「そんなこと言われても・・・・」
「みんなでやるからいいんじゃない」
そんなことは分かっている。
でも連絡取れないものはしようがないじゃないかってそう思いませんか? と目に見えない誰かに呼びかけてみる。
「今、やれることをすればいいじゃない」
智恵理が言ってくれた。ありがとう、智恵理。
「・・・・まあ、しょうがないわね。とりあえず稽古しますか」
篝は重くなりかけていた腰をあげた。
久々の稽古のような気がした。
実質、そんなに時間的には経っていない。いろんな事が在りすぎたのだ。私の周りだけ・・・・
稽古は順調にいくかにみえた。しかし、
「ああああ、やっぱりうまくいかないわね」
ちょっと切れたように篝が言う。
紗綾のセリフの場面だ。本人ではないのだからそれは難しいだろう。
「まあ、そう短気を起こさないで。今日のところは我慢して」
紅愛が言ってくれた。みんな、なんてホローがうまいんだ。涙が出そうになる。
「だって・・・・」
扉が開いた。
「紗綾!」
みんなが注目した。
そこに経っていたのは・・・・・櫻田先生だった。
「ど、どうしたの?」
櫻田先生は予期していなかったみんなの行動に驚いて、目をパチクリさせていた。
「なんだ、先生か・・・・」
篝の先生に対する第一声だ。
「えっ?」
先生が、今の状況を理解するにはちょっと時間が要る。
「なあに・・・・来ちゃダメだった」
「そんなことないですよ」
「そうですよ」
みんなでホローする。先生には居てもらわないといけない。
土日に部活する場合、顧問の先生の立会いが必要だからである。
急に日曜日に出て来いと言われた先生も大変である。
とここまでは一般論。しかし、この櫻田先生はある機関の人間だ。
それも篝を見張っている立場だ。隠れてないで堂々と見張っていればいいのである。
だからってわけではないのだろうが、ちょっといつもとニヤケ方が違うような気がする。多分。
紗綾がいない分はみんなで協力しあって、といえば聞こえはいいが、篝は私には代役をさせなかった。
櫻田先生は演ってるのに・・・・。別に演りたい分けじゃないけど。
なんかねえ・・・・。雑用に飽き飽きしていたのもある。って私も演劇部のはず・・・。
午後からだったが意外とみっちり稽古が出来た。と篝の弁。
なぜか、いい緊張感があった。アクアの超災害と日本での災害が起こらないようにするためだ。
誰も手を抜くものはいない。これからも。
智恵理は篝から離れなかった。昨日の報告はもう受けているはず。
だったら尚更。そして、アクアの技術を目の当たりにした私にも。
「霧島さん、ちょっと手伝ってほしいんだけど」
櫻田先生はちょっとニヤケながら言った。
「はい。わかりました」
篝たちと別れて、櫻田先生と職員室まで行くと、
そこには背広を着た厳つい顔の大人が三人応接セットのソファに座っていた。
その前に座らせられた。
「身分を明かすことは出来ないが、私はある機関の者だ」
「大のおとなが、それですか?」
嫌味を兎に角言いたかった。
「機関の者だ。どんな物だっていうのよ。失礼じゃないですか?
親に教わらなかったですか?初めて会う人は年齢に関係なく敬語を使い、自分から名乗ることって」
「いきなり、面白いことを言う」
「面白い・・・・面白く聞こえるんだったら、もう日本も終わりね。
そうだ、篝に言って終わりにしてしまいましょうか?」
「・・・・・」
大人たちは皆、黙り込んだ。むしゃくしゃした。
「霧島さん・・・・」
「櫻田先生もです。嘘ついて私をここに連れてきて」
「ごめんなさい」
「まあ、そのぐらいにしときませんか?霧島さん」
予期してなかった人物の登場だ。担任の出雲先生だった。
「皆さんも、もう少し彼女のことを大事にしてもらいたいですね」
いつもの出雲先生とは違っていた。目つきが悪い。顔つきも悪いような気がする。
帰ろうとして立ち上がった。が、出雲先生に肩を捕まれ、ソファに座らされた。
「そう、怒らないでください」
「・・・・・」
「あなたに、どうしても聞いておきたいことがあるっていうものですから」
すごく、威圧された。目が怖かった。
「な、なんですか・・・・」
威圧負けした。
「アクアに行きましたね?」
「・・・はい・・・」
「そこで見てきたことを全て話してほしいのですが・・・・」
「・・・・先生も機関とやらの・・・・」
「いやぁ、私は違います」
「じゃぁ、なんで?」
「今は言えません」
まただ。これで何人目だ。
みんな、口を揃えて今は言えないという。
「別に、変わったことなんかなかったけど・・・・」
「どんなことでもいいから」
またおやじが上からモノを言った。
「紅愛に直接聞けばいいじゃないですか。どうせ、ろくなことに使わないんでしょ」
「なに!」
大人三人が一斉に立ち上がった。今にも殴りかかりそうな勢いだった。


つづく