息苦しいので目を開けると篝が鼻をつまんでいた。
目をパチクリさせていると篝が大笑いした。
「ちょっと」
「ビックリしたよ。陽子ちゃんが横で寝てるんだもん」
「もうなんともない」
「なにが?」
「なにがって」
そうか、篝には記憶がないんだ。あのゴキブリみたいなテロリストも知らないんだ。
「いやあ、よく寝た、寝た」
「そうだね・・・」
「ゴキブリ」
「えっ」
「ゴキブリが夢に出てきた」
「そ、そうなんだ」
「あんまり気持ちいいものじゃないね」
(踏んづけるほうがもっと気持ち悪いよ。
あの感じ、足に伝わったあの感じは暫く忘れない。
あああああああ、思い出すだけで胸のここら辺がむず痒くなる)
ケラケラと篝が笑っている。
篝が復活した。紅愛たちの言うとおりだった。
急に篝をハグしたくなった。
ギュッと抱きしめた。
「どうしたの、陽子ちゃん?ちょっと変だよ。趣味変わった?」
「変わってもあんたじゃないよ」
「だよね」
大笑いした。短いやり取りだが実感した。
「よし、稽古するぞ!陽子ちゃんみんな集めて!」
「今から?」
「そう、今から!」
思いつたら今。篝だ。篝が戻ってきた。
嬉しくて面倒くさいとも思わず、みんなに連絡をした。
紗綾だけ繋がらなかった。あの紗綾のことだ。ケロッとして現れるに違いない。
その時はあまり気にしていなかった。