流されないように踏ん張った。
だが、水の勢いのほうが上だった。
次の瞬間、水の中にいた。
すると、場面が変わった。
 白いカーテンが風になびいている。少し冷たい。
ベッドの上だった。
見たことの無い部屋だった。
ベッドを抜け出し、部屋の外に出てみた。
黒い服を着た大人たちが大勢いた。
その部屋の中央に写真が一枚あった。
篝だ。
それも、今の、高校生の篝が写っていた。
みんないた。
紅愛も智恵理も紗綾もクラスメートや先生まで沢山いた。
みんな泣いている。
それは、葬式だ。
写真の前に、布団が敷かれている。
その布団に、誰かが横たわり白い布がかぶせてある。
近づく。白い布に手をかける。そっとめくる。


 飛び起きた。
そこは、病院の篝の部屋だった。
夢から覚めた。
汗をかいていた。
嫌な夢だった。
最後の顔は見れなかった。
ふっと篝を見る。
変化は無いみたいだ。
篝の手を握っていた、力任せに。
「それじゃ、痛くて可哀相だよ」
紗綾だった。
「念を送ってるの」
「念じゃなくて、気でしょ」
「そうともいう・・・」
「届いてないみたいだよ」
「そんなことない」
「まあいいけど」
「・・・・ねえ、聞いていい?」
「・・・・」
「あなた・・・・誰?」
「・・・・」
「神様なの?それとも宇宙人?」
また、聞いてみた。
今だったら多少受け入れるだけの容量はある。
「・・・・」
紗綾は答えなかった。まあ、分かってはいたけど。
「これから、どうなるの?」
「・・・・」
「分かってるんなら教えてくれない?」
「・・・・」
それからの紗綾は朝まで一言も話さなかった。
 アクアの時間で九時に愛葵は病院に来た。
「今日の、夜には地球へ、元の世界へ帰れるわ」
うれしい知らせだった。
「篝の意識が戻らなくてもいいの?」
「こちらの技術であれば大丈夫」
紗綾が答えた。やはり全てを知っているようだ。
もうそれを問い詰める気にはなれなかった。
篝が笑っているように見えた。
それがなおうれしかった。
帰ったら、いつものようにお風呂に入ろう。
ゆっくりとながーく。
入浴剤は山茶花の香りにしよう。
数少ないがこういうときに使わないと意味が無い。
などと思いを馳せていると、愛葵が言った。
「ただし、ふたりだけ・・・・それも一度しか使えないです」
「えええええええええ」
「負荷が強すぎて、残りひとりは完全に修理してからになります」
「それは、いつですか?」
「早くて二ヵ月後・・・・」
「大丈夫だよ。陽子ちゃん」
「大丈夫って・・・・」
「私は乗らないから。・・・・ちょっと手を貸しすぎたみたい・・・・」
紗綾は言った。
確かに、紗綾はどうやっているのかは分からないが、
移動手段は持っている。
ここに連れてきたのだから。
それに、いつもの笑顔を見せている。
それからの数時間は移動における注意点などのレクチャーにあてた。
結構むずかしいものだった。
中身を理解するっていうより、手順を覚えるほうに集中した。
理屈なんてどうでもいい。
兎に角無事に帰り、お風呂に入る、ただその一点だけだった。


つづく