「ほんの1ヵ月前だよ」
紗綾を見た。
笑顔だった。
「紗綾。だめなの?」
「むちゃ、言わないの」
「むちゃ・・・・」
むちゃって、こういうときにも使うんだ。
その時、生温い風が吹いた。


 夜、月は出ていなかった。空全体が雲に覆われていた。
篝の部屋に簡易ベッドを持ち込んで寝た。
夢を見た。
夢って言うより、昔の記憶だった。ような・・・・
 幼稚園の年長さんだ。道路にトカゲがいた。当然、見つけたのは篝だ。
篝はどこからか短い棒を見つけてきて、トカゲを突き始めた。トカゲは嫌がり、逃げた。
それを、二人で追いかけた。意外とトカゲは足が速い。
見失わないように必死で追いかけた。随分と遠くまで来ていた。
ずっと、下を向いていたので、ここがどこか分からない。完全に迷子だ。
「大丈夫だよ」
「うん、大丈夫!」
呪文のように口にしていた。
「ダイジョウV」
おちゃらけてもみた。
心細いのは分かっていた。なぜなら、つないだ手と手に力が入っていたからだ。
大きな川があった。
水かさはそんないないが流れは速かった。
草花は川岸に所狭しといろんな色をつけていた。
あれを見つけた。
クローバーだ。
夢中になり四つ葉を探した。
「あった!篝あったよ!」
そこに篝はいなかった。
すると、両手をばたつかせながら、川下に流されていく篝をみつける。
「篝!」
叫んでも届かない。
いつの間にか、水かさが膝上にまできていた。


つづく