(でも、どうやって助ければいいの?)
(ちょっと、痛いけど我慢してね)
(なんか、我慢ばっかりなんだけど)
(それが人生ってものよ)
(あんたは何歳だよ)
(いい突込みするねえ)
(褒めてくれてありがとう)
(どういたしまして。じゃいい?)
(うん)
(右の人差し指を出して)
紗綾の言われるまま、右手の人差し指を出した。
すると、自然に縦に傷がつき、血が出てきた。
呆気にとられた。当たり前だ。
何にもしないのに傷がつき血が出てきたのだから。
(その血で繭を溶かすの)
繭に一滴、垂らしてみた。繭がジュワッと溶けた。
(陽子ちゃんにしか出来ないこと。分かってくれた?誰の血でもいいわけじゃないの)
紗綾が優しく言ってくれた。
(少しずつ、溶かしていってね。慌てることないから)
(わかった)
一滴の血でも相当な範囲を溶かすことが出来た。
数分経ったとき、篝の頭が見えてきた。
右手は血で真っ赤になっていた。
左手で繭を少しずつだがほぐしていった。
虫たちの威嚇も無かった。〈後から紗綾に聞いた話だが、血の匂いが嫌いだったみたい。〉
やっと篝の顔が現れた。
(陽子ちゃん。いい。陽子ちゃんの血を眉間と左右の鎖骨のところに一滴でいいから落として、
そうすれば虫たちは篝ちゃんを襲ったりしなくなるから)
こういうときはテレパシーって本当に役に立つものだなあと思った。
トランシーバーや携帯なら電波の入りがどうのと悩まなければならないからだ。
紗綾の言うとおりに血を眉間と左右の鎖骨の部分に一滴ずつ落とした。
篝はまだ目を覚まさなかった。
“バチン!”
電気が落ちた。暗闇に襲われた。と思ったら身体が急にフワッと浮いた。
ことは一瞬にして終わった。私と篝は特殊部隊の人により外へ出された。
部屋を見上げると、窓からいろんな光が放たれていた。
殺虫剤では無理なのかなあなどと考えていた。
紗綾はいつもどおりニコニコしていた。
愛葵はホッとした顔をしていた。
いつの間にか部室棟の前は限界体制がとられていた。
戦争を報じるニュースで見たことがあるようないろんな車があった。
(なんなんだこれは!)
(心配してくれたんだよ。愛葵ちゃんなりに)
愛葵を見た。もう誰かに何か指示を出していた。テキパキとした後姿だった。
篝を救急車に乗せ、病院に向かうことになった。
こんな大げさなことになっているのに篝は一度も目を覚まさなかった。
まだ、夜は明ける気配すら無かった。



つづく