「いい。多分最初入ったとき中には何も無いと思う。
でも、目を閉じて耳を澄まして欲しい。
篝ちゃんの声が聞こえるはず・・・・陽子ちゃんにだけ・・・・」

目を閉じた。耳を澄ましてみる。
何の音だろう。空気の音。空気が舞っている音。

「何も考えないでね。考えると雑念が入るから」

ここは紗綾の言葉を信じるしかない。当たり前だけど・・・・
すると、かすかに何か呻いている音が聞こえた。それは篝の声だった。
その音のほうに近づいてみた。ロッカーの前だった。
ロッカーの中から聞こえていた。
そっと開けようとしたが硬くて開かなかった。
力任せに手前に引いた。活きよいよく扉が開いた。転びそうになった。
中には白い物があった。
触ってみる。ちょっとベタ付く。これは繭だ。
と思った瞬間、繭の中から篝の声が聞こえたような気がした。
「篝・・・・・」
呼んでみた。返事は無かった。
足元に黒い物があった。動いた。
「ヒィッ!」
飛び退いた。
ゾロゾロとロッカーの中から出てきた。
とりあえず、その場から逃げた。
どう見てもゴキブリにしか見えない生き物だ。気持ちが悪い。
それは、これでもかという具合に、次から次と現れた。
いつの間にか机の上に乗っていた。床一面真っ黒になっていた。
虫が所狭しと蠢いている。
昔、アメリカ映画で見たような光景だ。
確かあの時も、途中で気持ち悪くなりトイレに駆け込んだ。
足が多くあるのと足が無い虫は大嫌いだ!
「もう、どうにかしてよ!」
(そう、怒りなさんな)
(おっさんかあんたは)
(うまいこと言うね)
(感心してる場合か)
(突っ込み上手だね)
(あのね・・・・お願いだからなんとかしてよ)
(大丈夫だよ。その虫たちの狙いは篝ちゃんだから、陽子ちゃんを襲ったりしないよ。たぶん)
(たぶんって・・・・)
(確証は無いけどね)
(・・・・)
(さあ、思い切って足を下ろそう)
(う、うん・・・・ってあんた見えてるの?この状況分かってんの?)
(かもね・・・・いいから先に行こう。でないと篝ちゃんが、もうもたないよ)
(ええええええええ)
仕方なく、ゆっくりと足を下ろした。
何かをっていうか虫を踏んずけた。
ぬるっとグシャそんな感触が足の裏から伝わってきた。
(気持ち悪い・・・・・)
(我慢だよ)
一歩一歩篝であろう繭に近づく。
紗綾が言うとおり踏み潰しても蹴散らしても虫は襲ってこなかった。
繭に手を伸ばしたとき、虫が繭を守ろうとして威嚇してきた。
ここからが正念場だ。



つづく