約束の時間はあっという間にやってきた。
紗綾はもう来ていた。いつもと変わらない制服のままだった。
「着替えてこなかったの?」
「汚れることは無いから」
「そうなんだ」
「そう」
やけに自信があるみたいだった。いつものことか・・・・?
「じゃあ、行こうか」
「うん」
ドキドキしていた。
「ここに座って」
ブランコに腰掛けるように紗綾は言った。
「目をつむって」
ここから先はあの時と同じだった。
言われるまま、目を閉じた。
すぐに身体が軽くなり、ふわりふわり浮いているような感じがした。
遠くで紗綾の声がした。
「もう大丈夫だよ」
そっと目を開けた。
今度は普通の街だった。今までいたのと変わりは無かった。
「えっと、もう飛んできたの?」
「うん」
「本当?」
「うそは言わない」
「何も変わったところ無いみたいなんだけど・・・・?」
そこは、旅立つ前の南公園ブランコに腰掛けた状態だった。
紗綾が歩き出した。
「ねえ、ここはどこなの?」
「もうちょっと待ってね」
紗綾が質問を受け付けなかった。
どこをどう見ても同じ街だ。私の目にはそう映っていた。
あきらかに学校へ向かっていた。
だったら最初から学校で待ち合わせすればよかったのに・・・・。
「しょうがないでしょ。あそこからしか、こちらの世界には、これないんだから」
「こころ、読んでたのね」
「話しかけるからでしょ」
「別に、今は話しかけたんじゃないんだけど・・・・」
こころを読まれるって、やっぱり良い気はしない。
思ったとおり学校に辿り着いた。
だが、何か違和感を覚える。なんだろう・・・・
よく校庭を見ると、なぞが解けた。
桜の木が無い。あの何百年も我が物顔で立っている桜の木が無い。
「さくら・・・・・・・」
「ああ、気がついたのね」
「どういうこと?」
「どういうって・・・別の場所だからよ」
「別の・・・・」
「本当は、気づいていたんでしょ?」
確かに、別の場所であることはなんとなく判っていたつもりだった。
でも、それは本心からそう思っているわけではない。
なぜなら、私は、普通の高校生だからで、SFを何が何でも信じているわけではないからだ。
 夜の学校に来たのは始めてかも知れない。生暖かい風が頬を撫でる。空を見上げた。
何か黒いものがあった。



つづく