廊下の窓から見える風景はいつもと変わらないものだった。
運動部部員たちは、汗をこれでもかというぐらいかきながら走っている。
いつもと変わらない風景ってなんだろう。同じことをしていても、
昨日と同じではないのだ。同じように見えるだけ。
時間の使い方とか、過ごし方が似ているだけなんだ。
(智恵理ちゃんが慌てて走ってくるよ)
階段のほうを見た。
智恵理が息を切らしながら走ってきた。
(紗綾!)
(なに?)
(あなた、宇宙人?)
(どうかしら?)
(ヒントくらいないの?)
(言うとわかっちゃうから)
(わかるんだ!)
(たぶんね)
そんな、会話をしている間に、智恵理が近寄ってきて、私と紅愛の腕を掴んだ。
痛かった。
「大変なの・・・・」
「どうしたの?」
紅愛は落ち着いていた。
「篝さんが・・・・」
「篝がどうしたの?」
また、なにか起こったことだけはすぐにわかった。
「篝がどうしたの?」
「いなくなった!」
「いなくなった・・・・?」
「正確には、・・・・消えた・・・・」
「消えた・・・・?」
一瞬、吸い込んだ息が胸の真ん中で止まった。咳が出た。
「急に・・・・私たちの前から・・・・」
(紗綾!どういうこと?)
(わからない・・・・)
(あなたにも分からないことがあるの?)
(そうね)
(冷静だ)
こんな時も紗綾は、冷静に状況を見ていると思った。
「食堂脇の自販機でお茶を買って、そしてそれを飲んだ瞬間に・・・・いなくなった」
「あなたたち、警護してたんじゃないの!」
紅愛が物凄い剣幕で智恵理に食って掛かった。
「・・・・」
「あまり、大きい声を出さないほうがいい」
中から、紗綾が出てきた。
(冷静だ)
「こういうときは、誰かが冷静に対処しないといけない・・・・と思うでしょ」
と言いながら私の顔を覗き込んだ。
「そうね」
私も意外と冷静になっているのに気がついた。
「それで、どこに行っちゃったの?」
「今、調べている」
「私も、調べてみる」
紅愛は部室の中に入り、パソコンでメールを打ち始めた。
アクアと唯一交信できるアイテムなのだ。
その打ち方が異常なほど早かった。
出雲先生は驚いていた。開いた口が塞ぐことは暫く無かった。
アクアからはこれといって情報は無かった。
智恵理の組織もいろんな機材を使って食堂回りを探していた。
が、手がかり一つ見つからなかった。
頼みの綱は紗綾だけだ。
宇宙人か神の力があれば簡単に解決するだろうと思った。
だが、紗綾が突然いなくなった。
たった今までここに居たのに跡形も無く居なくなってしなった。
「あれ?みんなどこ行っちゃったのかな」
暢気なことを言っている出雲先生だ。
「先生に知られちゃまずいわ」
紅愛が言った。
確かにその通りだ。ここで大騒ぎされても困るだけだ。
「色々とあるんですよ、先生」
「ほう、そうだな。そうだろうな」
なんて単純なんだ。変に勘がよくても困るが、ここまで鈍いのも困るかも。
しばらくして、智恵理たちの捜査の結論が出た。
やはり、篝はどこかへ行ってしまった。それは多分、異世界だと言った。
紗綾を探した。こうなっては紗綾しか頼る人間はいない。
また、あの力で篝を助けるしかないのだ。
紗綾はいない。心の中で何度も呼びかけても返事はなかった。
時間だけが過ぎていく。
そんな時、アクアの科学力で篝の手がかりを見つけた。
時空の切れ目を見つけたというのだ。
それが、食堂脇の自販機の所から3メートルの溝の中。
そこから篝の生体反応をかすかに検出したというのだ。



つづく