ひとつ手前の駅で目が覚めた。
「助かった」
寝てしまわないように、立つことにした。
その駅はまだ新しかった。妻咲立町よりあとに出来た町だった。
地図の通り、商店街を抜けた右手にそのお店はあった。
『吉野衣装』という看板。
店の中には、所狭しといろんな衣装があった。
「すいません」
声をかけると中からとても綺麗な人が出てきた。
「いらっしゃい。ああ、女学館の娘ね」
「はい」
「篝から電話貰ってるから」
「はい」
奥に通された。そこには衣装の準備が整っていた。
「遠かったでしょ」
その人は吉野美玖さんといった。女学館の3年上の先輩だった。 それも演劇部の。
「昔から、演劇部の衣装はうちでやってたの。もう何十年になるかな」
「へえ、そうだったんですか」
過去の公演の写真を見せてもらった。
とても華やかだった。そして、そこに写っている人たちはみんなキラキラしていた。
「まるで宝塚だ!」
実は宝塚歌劇を生で見たことはない。テレビなどでちょっと見た程度だ。
「本当?」
うれしそうに聞く美玖。
「はい。どれも素敵です」
「ありがとう」
「篝は元気してる?」
「ええ、まあなんとか」
美玖がしみじみと語り始めた。
「私たちの最後の文化祭公演のとき、まだ中学生だった篝が学校に来てて、
お芝居を見てくれたの。
もう、部員がいなかったから廃部は決定的だった。
するとそれを知った篝が“私がやります”って。ビックリしたな。
だって、まだ入学もしていなのに。でもわたしたち本当に嬉しかったの」
まさかこれが、篝が入学した理由・・・・。
「去年は部員が集まらなかったからって、わざわざ報告に来てくれたりして」
(律儀にそんなこともしていたんだ)
「でも、今年はお芝居が見れるのね。もうみんなに連絡してあるから」
「ああ、そうなんですか・・・・」
「喜んでたわよ。先輩たち。みんな大喜び」
「へえ。すごい」
「だって、歴史があるもの演劇部は」
確かに歴史はある。
が、その歴史の中に、信じられない出来事が起こっていることも裏のページにはある。



つづく