本当に篝の声が出るようになった。
篝の喉に寄生した虫はあの花の香りが嫌いで、さらに殺虫効果もあったらしい。
一気に元気になった篝は、昨日までとは打って変わり、学校内を走り回っていた。
「さあ、今日からバリバリやるわよ!」
現金なものだ。
そして、智恵理と紅愛が紗綾を警戒し始めたのが、明らかにわかった。
特に、智恵理の態度はハッキリしてわかりやすかった。
完全に敵を見る目をしていた。
「陽子ちゃん!練習、練習!」
元気を取り戻した篝が言った。
「えええええええ」
「そろそろ、本腰いれてやらないと間に合わなくなっちゃうよ」
確かにそうだ。5月のゴールデンウィークに本番がやってくるんだ。
「今日から、陽子ちゃん以外は『虹色の羽根』の練習をはじめます」
「ええっ?」
「陽子ちゃんの出番は最後のほうだから。それまで基礎練習」
「マジですか!」
「はい!」
さて、これからが本番だ。一言一句間違えるわけにはいかない。
必ず成功させるという信念も同時に強くもたなければならない。
間違えると、どの程度の超災害が起こるのか全く検討もつかないと紅愛が言う。
智恵理がまた急にいなくなった。多分、機関やらと連絡をとっているのだろう。
警戒を強めるのだろう。
紗綾は、いつものノー天気振りを見せて、ただニコニコしていた。
ただ、緊張感はあった。まず本を見ながらなんとなく動いてみた。ぎこちなかった。
篝が演出をはじめた。そこに顧問の先生が入ってきたが、何も言わずジッと見ていた。
休憩に入るなり、篝がまた思い出したように、
「陽子ちゃん!大変!」
「どうしたの?」
「今日、衣装のサンプルを取りに行く約束をしてた!」
「マジッ」
篝はニコッと笑って、
「うん」
「それで・・・・」
言わずもがな。私が取りに行くことになった。
紙に住所と電話番号それに簡単な地図を書いてもらい、学校を出て、駅に向かった。
河川敷の桜が綺麗だった。ちょっと立ち止まって眺めた。
風が吹き桜吹雪となった。渦を巻きながら桜の花びらが天に昇った。
爽快だ。携帯が鳴った。篝からだ。
「陽子ちゃん、道草食ってないよね?」
「あたりまえじゃない。もうすぐ駅だから」
「あっそ、気をつけてね」
「ありがとう」
鋭い感だ。小走りに駅に向かった。
 久々の電車だ。何か特別な用事がない限り電車には乗らない。
買い物など、ほとんど駅前のショッピングモールで用が済んでしまうからである。
電車の中は温かかった。身体がポカポカしてきた。それと同時に眠気が襲ってきた。
「やばい・・・・」
と思ったときには右の瞼は閉じていた。
左の瞼は半分閉じたところでがんばっていたが、
その抵抗もあっという間に破られてしまった。
微妙に揺れる身体。
伝わる振動。
電車の居眠りって、どうしてこんなにも気持ちがいいのだろうか。
夢の世界へのドアがノックされた。



つづく