次の日、猛特訓が始まった。
朝から、篝は楽しんで作ってきたであろうスケジュール表を配った。
休憩時間も無く、ビッシリと練習メニューが書かれてあった。
「篝、これやるの?」
「陽子ちゃん、当たり前じゃない。がんばろう!」
やたら力が入っている篝だ。

 基礎編
授業の合間の休憩時間・・・・腹式呼吸の練習。
昼休憩・・・・発声練習。
放課後・・・・ランニング5キロ。
       発声練習。
       ストレッチ1時間
       などなど、その都度追加あり。

まるで運動部だ。篝に言わせれば、これぐらい普通らしい。
(図書館調べでは・・・・)私には、ちょっと辛い。
「こういう経験もいいものだよ。陽子ちゃん」
上からものを言うのは紗綾だ。

休憩時間の仮題は、なんとかやり過ごした。
その時、智恵理に昨日の図書館での出来事を話した。
「あなたに守って欲しいと言ったのはそういうことなの」
「本当だったんだね」
「まだ、信じてなかったの?」
「半信半疑だった」
「そう。でもこれからよ」
「これからか・・・・」
さらに不安を感じた。


 そして、放課後は私にとって未知の世界に突入していた。
ランニング5キロは、皆から30分も遅れた。
他のメンバーは超人的な体力があるのか、誰も息一つ乱していない。
「陽子ちゃん、頑張んないと駄目だよ」
分かっているが、こんなに身体を酷使したのは初めてなのだ。
思った以上に、いうことをきかない。
運動は苦手ではないと思っていたが、違ったみたいだ。
「身体硬いね」
紅愛まで言うか。
「まじめにやってる!」
こういうときに、必ずチャチャをいれてくるのは紗綾だ。
「お酢でも飲んだら」
「お酢を飲んでも、身体は柔らかくならないよ」
「知っているよ。それぐらい!陽子ちゃんを励ましているんじゃない!」
「ご親切にありがとう」
「どういたしまして」
軽快な会話がかわされた。なんか普通の高校生の会話みたいだ。
「普通の高校生だよ。私たち」
また、紗綾が人の心を読んだ。
紅愛と智恵理の目が、一瞬険しくなったように見えた。
「さあ、発声の稽古をしよう!」
篝の言葉が空気を変えた。


 空はあと少しで真っ暗になろうとしていた。
今日は、みっちりと練習をした。汗をぬぐった。
爽快感があった。
“普通の部活ってこういうものだろうか”などと考えてしまった。
普通という言葉が特別なものに感じたからだ。

つづく