午後の授業は、ことのほか順調に進んだ。
最後まで篝と智恵理は現れなかった。
篝の掃除当番の仕事を私が全うし、
篝のカバンを持って部室に行くと、全員揃っていた。
「やっときた」
篝の第一声だ。
「やっとって、あんたが、サボってるからでしょ」
「いいの。席に着いて」
これは駄目だ。
「今日、衣装とセットの発注をしてきたわ」
「ええええええ」
私は叫んだが、紗綾はニコニコしていた。
紅愛はパソコンに何かを打っていた。
智恵理は表情をあまり変えなかった。
「あのさ、まだなにも打ち合わせしてないじゃない?」
「大丈夫、わたしが総合演出なんだから」
「そりゃそうだけど・・・・」
暴走しなければいいのだが。
「それと、新しい顧問が、決まったわ」
「・・・・」
「イズッチ」
イズッチとは出雲先生のことである。
こう呼んでいるのは篝だけだ。
「それと櫻田先生」
「やっぱりきたか」
「なに、きたかって」
篝がすばやく聞いてきた。
他の人たちは当然ながら理由は分かっている。
知らないのは篝だけだ。
「ううん。なんでもない」
「そっ」
簡単に引いてくれた。
今、自分が考えてきた内容を話すのが、篝には重要だったからだ。
「それで、これが公演までの大まかなスケジュールね」
とビッシリ書かれた紙を渡された。
この紙が災害をもたらしているということなのか?
と智恵理と紅愛を見たがなんの反応も示さなかった。
ビッシリ稽古付けだ。だが、犬の役の私は、
「陽子ちゃんには、マネージャーもお願い」
やっぱりそうきたか。犬はあまり出番がないのだ。
「マネージャーって?」
聞いたが、
「私もよくわかんないから、みんなと相談して」
マジですか?と心の中で呟いた。それに反応したのが紗綾だった。
(仕方ないよ。それがあなたの役目)
テレパシーだ。
(役目って?)
(うふふっ)
(笑ってごまかすな)
などと会話をしていると、出雲先生と櫻田先生が入ってきて挨拶をした。
「いやあ、みんな宜しく。部活の顧問は初めてなんだが、楽しくやろうね」
ここにもノー天気なひとがいた。
「よろしく」
と冷めた感じの櫻田先生。
(役者が揃ったね)
紗綾がテレパシーを送ってきた。
何気に聞いていたが、またまた疑問がでてきた。
まさか、出雲先生もなにかあるのだろうか?
紗綾に聞いても、“言えないの”といわれるだけだし、
ここは智恵理がベストと判断した。
が、話かけるチャンスがなかった。
 今日は、本読みということをした。
それぞれ自分のセリフを感情込めて読み上げるのだ。
ト書きは出番の少ない私が読んだ。
緊張感があった。
当たり前だ。読み間違えるだけで、地震が起きてしまうかもしれないのだから。
篝と出雲先生以外は、みんな知っていること。だと思う。
なかなかうまい。棒読みな感じは誰もなかった。私以外は。
本読みを終えて。
感想を述べると、配役は嵌っていると思った。
みんな、芸達者なひとたちばかりだ。出雲先生は感動していた。
「いやあ、すばらしい。ワンダフル。ブラボー」
騒ぎ過ぎだ。みんなが引いている。出雲先生は全く気にしていない。
「うん、いい出来だわ」
篝はうれしそうだ。
「でも、まだ基礎が出来てないみたいだから。予定を変更して、明日から猛特訓を行います」
「えええええええ」
基礎が出来てないのは認めるが、そんなことは初めから分かっていたことじゃなかったのかね。
「メニューは明日までに考えてくるから、ジャージとか用意しといてね。今日はこれで解散!」
「それにしても、時間の短い部活ですね」
紗綾が言った。
「中身で勝負しているから」
すかさず篝が答える。
今日は何にも考えず、家に帰ろう。
頭を使うのがちょっと苦痛になってきている。

つづく