どこをどう探しても、紗綾も智恵理も見つからなかった。
仕方なく部室に戻ると、みんないた。
「遅いよ、陽子ちゃん」
「もう、配役決めたから」
「はやっ」
こんな展開かと思った。
苦難が待ち受けてるのは、篝じゃなく私かもしれない。
ここにいる人たちの顔を見てるとそう思った。

そして、配役はこうだ。

主人公 貴枝   日向篝
    すみ   魚吹紗綾
    サチ   熊野紅愛
    アカ   春日智恵理
最後に
    ねこ   霧島陽子

私は、動物の役だった。
なんとなくそうなるのではと思っていた。
やはり、いい感していると思う。
この日はこれだけだった。篝はそれだけを言って解散した。


 一度、家に帰り夕食を済ましてから、熊野紅愛との待ち合わせ場所に向かった。
夜の外出だったので、転校生に勉強の範囲を教える為と言って出てきた。
少し心配したが、何も疑うことのしない親である。
別に悪いことをするわけでもないのだが、なぜか気が引ける。
逆に我が娘は、人の為になることをしているのかもしれないのだよ。御両親。
よし、胸を張っていこう。
などと考えながら自転車を走らせる。
駅前まで、ものの5分。そこに制服姿の熊野紅愛がいた。
「待った?」
「少し」
「えっ、ごめん」
約束時間にはまだ5分はあったのに。そんな言い方しなくても・・・・。
「どこ行く?」
「私の家でいい?」
「いいよ、近いの?」
「うん」
歩いて3分もかからないところに、紅愛の家があった。
旧家のお屋敷だ。
どう考えても、最近転校してきた人が住んでいる家には見えない。
玄関の電気は点いていた。
だが人の気配はない。
「お母さんとか、家の人は?」
「誰もいない」
「えええ」
「私、ひとり」
「マジで」
急に振り返り、私の顔をじっと見て言った。
「マジで」
奥の部屋に通された。
片付いている。
というか、ほとんど家財道具がない。
「引っ越してきたばっかりなのに、荷物少ないのね」
「うん」
そっけない返事だ。
紅茶を出してくれた。
いい香りがした。
一口飲んでから本題に入った。
「私は、アクアの日本国公安秘密諜報省監視局第一管理室に所属しているの」
「・・・・」
「簡単にいうと、科学特捜隊みたいなもの」
「ああああ」
「知ってるの?」
「知らない」
「こっちでいう警備隊みたいなもの」
「ああああ」
理解できた。
「春日さんとはどういう・・・・?」
「彼女はこっちの人間。根本的に考え方が違うけど」
紅愛が冷たく言った。
「我々は、ただ被害を無くしたいだけ。でも彼女たちの機関は違う」
「違う?」
「彼女らは私たちの科学力が欲しいみたい」
「何の為に?」
「戦争する為」
「そんな・・・・」
「こちらの人間たちは未だに戦争しているでしょ。アクアではもう戦争は無いわ」
「ええっ、そうなんだ」
「世界はひとつになっているわ。共通言語は日本語なの。あとは方言という扱いになってるの」
「へえええええ。って、私にそんなこと話してもいいの?」
「ええ。特異点、日向篝のサポートはあなたにしかできないから」
「特異点・・・・?」
「そう」
「篝は普通じゃないってこと」
「そう」
「春日さんは、そんなこと言ってなかったわよ」
「それは言わないわよ」
「どうして?」
「こんな諺、知ってるかしら。“臭いものには蓋をしろ”」
「知ってる」
「そういう機関よ。こっちの日本の体質そのもの」
「ちょっと難しい」
「今の状況が彼女らの機関にとって臭いものなの」
「・・・・気に入らないってこと」
「そうね」
紅茶を飲んだ。冷めていた。
「温かいの、淹れてくるね」
「うん」
少し考える時間が出来た。
ふと時計を見ると21時を回っていた。
早すぎる。ここ最近、時間の消費を感じる。
少しして、フレーバーティを出してくれた。
香りで部屋が充たされた。
「おまたせ。こんどはローズヒップティにしたわ」
「ありがとう」
スッキリする口当たりだ。
「ねえ、さっき篝が普通じゃないって言ったよね」
「どういうこと?」
「虹色の羽根に関するものはすべて破棄されたことは知ってるわね」
「ええ」
「だけど、それが見つかった、それも、古本屋で」
(そこまで知っているんだ)
「ありえないことでしょ。そこでいろんな仮説を立ててみた。そして出た答えが・・・・」
「・・・・なに?」
「日向篝が、生み出したってこと」
「・・・・」
「日向篝の思いと、虹色の羽根の思いが合致した。だから日向篝の前に現れた」
「本に意志があるってこと?」
頷く、紅愛。
「そんなバカな」
「我々もそう思った。だけど・・・そうとしか考えられないの」
また、難しくなってきた。
ローズヒップティを一気に飲み干した。
やっぱり、可笑しな事になっていると思った。
「日向篝が、本の意志を呼び覚ました、と言ってもいいかも」
「そんな力が篝にはあるってこと?」
「生まれつきかどうかは分からないけど、今この状況を作り出したのは間違いなく日向篝」
超能力ってあるのだろうか?話には聞いたことはあるが、この目で確かめたことはない。今、素直に目の前の人間を信じればいいのだろうが、まだそこまで悟りを開いているわけではないのだ。
そのあとの話はあまり聞いていなかった。というより入ってこなかった。
やはり、素直に受け入れることが出来なかった。
ひとつ言えることは、みんなかってなことばり言っているということだった。


 宿題もせず、智恵理と紅愛たちの言っていることを考えていた。
「信じられない」
というのが本日の結論だった。
ベッドに潜り込んだのは朝方だったと思う。なるべくベッドの中では考えないようにした。睡眠まで犯されたくなかったからだ。

つづく