お茶を啜った。
安物だ。味がしない。
お茶は、香りと甘みのある味がすべてだと私は思う。
だから、このお茶は×。
智恵理の話を一通り聞いて思ったのは、これは現実じゃない。
ということを深く、深く、希望している自分が居ることだった。
だが、目の前に智恵理と櫻田先生はいる。夢にしてはちょっと無理がある。
瞬きを高速でしてみた。何にも変化は無かった。
受け入れるしかない。
全てを受け入れるしかない。
そう思った。
少し気分が楽になった。
「ということは、篝によりスイッチが入ってしまった」
「そのとおり」
「そこで、あなたたちが現れ、監視をはじめた」
「そう」
「で、これからどうするの?」
「別に、何も、ただ公演を成功させるだけ」
「あなた達は、私に何を求めているの?」
「この状況が、広がないようにして欲しい」
「これ以上台本を、人の目に触れさせないでほしい」
「意味わかんないんだけど?」
「多くの人間が、台本を認識し関わると被害がひろがる可能性がある」
「それで、部員を入れなかったんだ」
「そのとおり」
「・・・・それだけでいいの?」
「日向篝が挫折しないようして欲しい」
「挫折って・・・・」
「スイッチが入ってしまった以上、日向篝にいろんな形で災いや苦難がやってくる。あなたが、それらから日向篝を守ってほしい」
「でも、そのためにあなたたちがいるんでしょ?」
「私たちに出来ることは限られている。最後はあなたにかかっている」
「意味わかんない・・・・」
やっぱり素直に全てを受け入れることは難しいみたい。
「紅愛・・・・熊野紅愛は何者?」
と質問をすると、
「言えない」
「またか・・・・」
「私たちの口からは言えないの。禁則事項だから」
どっかで聞いたフレーズだ。
「紗綾は?」
「魚吹さん?」
「そう」
「彼女が何か?」
「知らないの?」
「なにを?」
「・・・・ううん。別に・・・・」
「彼女に何かあるの?」
「わからない・・・・」
「どうしてそう思うの?」
「いや・・・・なんとなく・・・・」
「確かに、急に演劇部に入るなんてなにかあるのかも・・・・。調べてくれます」
櫻田先生に指示を出した。
頷いて出て行く櫻田先生。
「兎に角、バックアップはちゃんとするから心配しないで」
握手を求められたがしなかった。
やっぱり、ハイ、そうですかという気にはなれなかった。


 教室に戻ると篝の姿はなかった。
「面白い話聞けた?」
今まで居なかった紗綾が現れた。
「な、なに?」
「大事なお話してたんでしょ」
「どうしてそれを・・・・」
「えへへん」
ニコニコしている紗綾。
「それで納得できた?」
「ぜんぜん!」
紗綾を見る。
「あなた、すべて知ってたの?」
「まあね」
「じゃ、これから起きることも?」
「それは、わからない」
「どうして?」
「篝やあなたがどうするかによって変わってくるから」
「どうするか?」
「そう、どう判断して、どう行動するか、それによって未来は変わる。だから前もって決まってることなんか一つもない」
「あなた・・・・宇宙人よね?」
「実は・・・・言えないの」
「やっぱり・・・・」
「でも、楽しくなってきた」
「楽しい・・・・?」
「・・・・なに?」
「人が苦しんだり、命にかかわることがあるかもしれないのに、楽しいなんておかしいよ」
「そう?・・・・そうね、前言撤回」
と言って笑顔を見せた。


つづく