翌日。
朝のニュースは九州地方で起きた地震の話で持ちきりだった。
震度5の地震が連続的に起こったらしい。
そして学校では演劇部の話で持ちきりだった。
それは転校生のふたりが入部したからだ。
その為、朝から入部希望者が続出した。
なんと篝はすべて断った。
また理解できない行動を篝はとった。
「なんとなく・・・・」
それが篝の理由だった。
「なんとなくって・・・・」
せめてもう2・3人入れよう、雑用もあると思うからと進言した。
(なぜ演劇部のことに必死になっているのだ、私は?)
が、受け入られなかった。
紅愛と智恵理は篝の方についた。
(ふたりの行動が理解できない)
紗綾は、朝から学校に来ていない。
だから、誰も見方はいない。
お昼休み。
智恵理に呼び出された。とりあえず弁当は食べさせてもらった。
食事を抜くことは、絶対にありえないからだ。
ついていくと其処は、来客用応接室だった。
学生の私にお茶が出された。
「単刀直入に聞きます。どこまで知ってるの?」
待ち構えていた櫻田先生が聞いてきた。
「なにを・・・・です?」
「この件に関してよ?」
「この件・・・・?」
「知らないの?」
「何にも・・・・」
「でもあなたは、日向篝と共に行動している」
「だから」
「・・・・」
「先生、いつも一緒だからって、全てを知っているわけではないんです」
「本当に・・・・知らないのね?」
「たぶん・・・・でもおかしいことが起こっていることぐらいは分かってるつもりです」
「おかしいこと?」
智恵理を見た。
「そう、どうして急に転校生が、それもふたり現れたのか?なぜそのふたりは演劇部に入ったのか?」
智恵理が口を開いた。
「いい勘してる・・・」
「ありがとう。昨日じっくり考える時間があったから。・・・・それに先生より智恵理のほうが、格が上。会社でいう上司ってとこかな」
「本当に、いい勘してる」
「ねえ、あなたたち誰?」
「あなただけに本当のことを教えてあげる。但し、これを聞いたら最後まで付き合ってもらうわよ。いい?」
「途中降板できないってこと?」
「そう。文化祭レベルのことじゃないの。国家に関わることだから」
まただ。想像を超える展開だ。
「私でも理解できることなら・・・・」
「難しいことではないわ。ただ高校生にはちょっと奇抜かもしれないけど」
「やっぱり、そうなんだ・・・・」
もう難しいことはごめんだ。
「私たちは国連の秘密機関に所属しているの」
(きたきた。最初から分けが分からん)
「私たちは、あることから地球を守る為に結成されたの」
「あること?」
「超災害」
「超災害?」
「簡単にいうと、ありえないこと」
(今が、そうなんだけど)
そこから、智恵理は御伽噺をはじめた。


 事の発端は大正12年4月に始まる。
女学館高等科演劇部の佐久耶みどりが書いた台本『虹色の羽根』が原因である。
身体の弱かった彼女が精魂込めて書いたこの作品にありえないことが起こった。
台本の文字列とその言葉の発音による音声信号が、空間震動による変革を起こし、亜空間に亀裂を生じさせ地震災害を起こした。
そして、その場所が特異点だった。
“パラレルワールド”もう一つの並行世界・日本。アクアだ。
その台本を読み間違えたり、書き間違えたり、またこの台本に想いがいかなくなったりすると、
もう一つの日本に地震災害がおきる。そして、その災害があまりに大きいとこちらの世界にも影響する。
それが、大正12年9月1日に起きた関東大震災だ。
アクアとの関連が分かったのは第二次世界大戦が終わった翌年の昭和21年8月23日のこと。
アクアからのコンタクトによりその存在が明らかになった。
その年に『虹色の羽根』の台本並びに資料は全て廃棄したはずだった。
しかし、平成6年再演が決まり、翌年の平成17年1月17日災害が起きた。
それが阪神淡路大震災。
関東大震災も阪神淡路大震災も演劇部の公演自体は失敗していた。
公演発案者が、思い立った人間が、途中で投げ出したからだ。
今現在、分かっていることは、この台本を読み公演したいと思った瞬間になんらかのスイッチが入る。
思う力と信じる力が、大きな要因であることは間違いない。
また、この台本自体が、ある条件を充たした者にしか見つからない。
まるで台本に意思があるみたいに。その人物が選ばれるのだ。
しかし、その条件をすべて解明できているわけではない。
いろんな研究はアクアで行われている。我々の遥か先の科学力を持っているからだ。
だが、今回イレギュラーが起きた。13年前にすべて排除したにも拘らず、日向篝があの台本を見つけてしまった。
一発で気に入り、公演を決めた。
そして、台本をコピーしアクアに災害が起きた。
一度スイッチが入ると、台本に関わることは全て、アクアに反映されるのだ。
今日、九州で起きた地震はその前触れだ。なぜ、九州に起きたのか?それは日向篝の両親の出身地だからである。身内に関係ある土地に災害が起きるのだ。

つづく