(3)
その日の授業は全く身にならなかった。
一文字も私の脳は記憶することを拒否した。
ただ昼食はしっかりと食べた。
エネルギーがないと考えることもままならないからだ。
そんなことを思っていると放課後になってしまった。
私は少し重い足取りで部室へ向かった。
このままズル休みをしようかとも考えた。
しかし、私の心のどこかに恐怖と違う何かが潜んでいた。
それが私を部室へと足を運ばせた。
部室にはもうみんな来ていた。
やはり何かあると居ても立ってもいられなくなるのだろう。
水口陽子が腕を組みひとり唸っている。
「うううううううううううううっ」
「どうしたんですか?」
糸井繁美に聞く。
「黄色いランドセルの子が男の子か女の子で悩んでいるの」
「はぁ〜っ」
「悩んだところで答えは出ないんだけどね」
水野真澄が冷静に。
「確かに・・・・」
それは水口陽子も判っているはずだ。なのに悩んでいる。なぜだろう?
次の瞬間、水口陽子が大きく目を開け右手を高々と掲げ声を発した。
「こうなったら徹底的にいくわよ」
「やるのね」
「もちろんよ」
「ワクワクするね」
「この謎、私たち第二霊能部が解き明かしてみせるわ」
水口陽子の表情は自信に満ちていた。
不安という文字は教室の掃除箱の雑巾のしたぐらいに置いてきてるのだろう。たぶん。
「で、なにをやるの?」
「まだ考えてない」
「そっ」
「明日までの宿題ということで今日はお開きにしましょ」
「放課後は待ち伏せしなくていいんですか?」
と私は反射的に聞いた。
「そうね・・・・じゃお願い見張っといて」
「私がですか?」
「他に誰が居るの?言い出したのはあなたよ」
この展開、以前にもあったような気がする。
結局、私だけが居残りになってしまった。

 ただ、じっと校門前で時間が過ぎるの待った。
こんなときに限って時の流れは遅く感じる。
たぶん私が時間の流れを逆行しようとしているからかもしれない。
素直に受け入れてしまえば早く時間は経ってくれたかも。
なんてことは後から思ったことなのだ。
ちょっと面白かったのはいろんな生徒が見れたこと。
同じような制服を着ているのに明らかに別人であると認識できた。
そんな中のひとりが三十分も校門前でキョロキョロして立っていた。
怪しい行動だ。
私はその子に近づいた。その子は私に気づき、慌てて走り去った。
その時だ。私の胸の奥から沸々と湧き上がってくるものがあった。
それは俗に言う。
”ワクワク”だった。
それからそのワクワクは私の身体を覆いつくした。
これがみんなが感じているものなんだ。
私は一歩、第二霊能部という底なし沼に足を捕らわれた気がした。
でも・・・・嫌ではなかった。