(1)
 我校は俗に言う一貫校で幼稚科から大学まであり、いろんな女子が毎日登校している。
ある日。
転校生がやってきた。
その子が転校生だということは一目瞭然だった。
なぜなら、黄色いランドセルを背負っていたからだ。
この学校では黄色いランドセルは認めていなかった。
だけど、不思議なことに誰もその黄色いランドセルを背負った子を見たことはなかった。


その噂が広がり始めたのはそれから1ヵ月が経った頃だった。
黄色いランドセルを背負った女の子が朝早くからずっと校門の前で佇んでいるのが目撃された。
おかしいのは同じ日に見た人と見なかった人がいたからだ。
それから何日も同じ事が続いた。
それは学園七不思議に数えられるようになった。

「って話しってる?」
放課後の部室で部長の水口陽子が聞いてきた。
私は高校からこの学校にきたので昔の話は全くと言って知らなかった。
「そうよね・・・結構マニアックな話だものね」
驚いた。水口陽子が自分でマニアックであると認めた発言をしたのだ。
「どうしたの?きょとんとして・・・」
糸井繁美がびっくりして動きの止まった私に声をかけてきた。
「ううん、別に」
強く早く首を振った。
「で、その黄色いランドセルの女の子が現れたとでも?」
さすが糸井繁美は突っ込みを忘れてはいない。
「そうなの。よく判ったわね」
「そりゃ、なんとなくはね」
急に話しはじめたら誰だってわかるって。
「それもね。朝だけじゃなく夕方も目撃されているの」
「それは初めての目撃談かもしれないわね」
「そうなの」
ふたりの会話はまるでシナリオがあるかのようにポンポンとセリフのキャッチボールが出来ている。
まさしく神業。
これだけ頭の回転の速さと知識力と洞察力を兼ね備えた人物はそういないと私は思う。
そこに水野真澄がさらに加わり会話が加速し始める。
それは、普通電車に乗るつもりが気がついたら新幹線に乗ってしまったぐらいの違いがある。
新幹線だったら乗り場が違うからわかるだろうと思われる方もいるかもしれないが、
それが第二霊能部なんです。
そして結論が、目撃談の検証をするという極当たり前のことだった。
「なにごとも基本が大切なの」
「基本を疎かにするから出来るものも出来なくなるし、見えるものも見えなくなるの」
水口陽子と糸井繁美の言うことは小学校一年から六年まで通った
書道教室のごんた先生にずっと言われていたことだった。
思い出したくない記憶が私の脳裏を駆け巡った。
翌日の早朝集合する話をしているところに新しい情報が入ってきた。
それは水野真澄によってもたらされた。
「あの、放課後にも校門前に黄色いランドセルの子がいるって噂があるわ」
「それは初耳ね」
水口陽子の目がキラキラ輝いていた。それは誰の目にも見えるくらい大きな星が瞬いていた。

 当然のことながら我々は校門前に居る。
水口陽子初めみんなで聞き取り調査をしていた。
ひとつ共通項がみつかった。
黄色いランドセルの子は目撃されているがその顔を見た人がいないことだ。また、
男か女かも定かではなかった。
「でも、この学校に来るから女の子でしょ」
糸井繁美が言う。
「甘いわね」
水口陽子が腕を組みながら言った。
「確かにこの学校は女子校よ。でも、憧れは男女関係ないわ」
「あこがれ・・・」
「そう、憧れ」
「この学校に憧れた子が黄色いランドセルの子なんですか?」
「私はそう睨んでいる」
「誰かを迎えに来たのも知れないわ」
水野真澄が空かず言った。
「迎えですか・・・?」
私はふたりが言ったことを反復することしかできなかった。
「兄妹とか・・・または・・・」
「または・・・?」
「死神とか・・・」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・・」
私は息をのんだ。呼吸をするのを忘れて酸欠状態になってしまったが
間一髪のところで水野真澄が助けてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私は気を取り直して聞いた。
「あのー。死神って。それ、死期が近い人を迎えに来たってことですか?」
「そう」
あっさり答えられた。
「そうね。その線もあるわね」
水口陽子もあっさり認めた。
「可能性があるものはちゃんと認めなきゃだめよ。なんでも言い張るのはよくないわ」
おっしゃる通り、私もそう思います。
「だから、当分は二本立てでいくわ」
「そうね。それしかないわね」
「うん、うん」
私以外、それぞれ納得したような顔をしている。
「さあ、今日は帰りましょう。明日朝七時集合だからね」
水口陽子は嬉しそうに鞄を提げて家路についた。
他のメンバーも同じようにワクワクしながら帰っていった。
私は明日の早起きが今相当なストレスとなっているのを感じていた。