「大変よ!!!!!」
部長の水口陽子が飛び込んでくる。
彼女の大変は本当に大変になるのであまり聴きたくない言葉だ。
「2年生がシンデレラをやるみたいですよ」
「陽子さんが冗談を言う日が遂に来ましたか」
「本当よ」
私は、陽子と糸井繁美の相変わらずの軽妙なやり取りに感心していた。
「シンデレラはダメなんですか?」
「それがね」
また、昔話を聞く羽目になった。
それはもう30年前のことになる。
文化発表会を三日後に控えた日に一人の生徒が第三講堂に行ったきり帰ってこなくなるという事件が起こった。
その生徒はシンデレラという大役をもらった生徒だった。
第三講堂の神隠し。その事件はそういわれた。
「それで何が大変なんですか?」
「実はシンデレラをやると、講堂舞台下に幽霊が現れるって話なの」
「本当ですか?」
「私はまだ、見たことは無いけど」
「やってなかったしね」
「そのことと幽霊がでることの因果関係は確認できていませんけどね」
「でも、いわくつきのシンデレラなんて誰もやろうとしないでしょ」
「じゃ、久しぶりに・・・・」
「そういうことになるわね」
陽子の目は不気味に、繁美の目はランランと輝いていた。
その翌日。
もう幽霊話が学校中に広まっていた。そして目撃者も現れた。
ここまで騒がられたら第二霊能部としては黙っていられない。
早速、放課後に第三講堂に向かった。相変わらず手ぶらだ。
何がしかの証拠を残そうという気はないみたいだ。
恐る恐る講堂下の扉を開けた。中に入ると講堂独特の臭いがした。
そこには折りたたまれたパイプ椅子がたくさんあった。
小さな窓があるにはあったが薄暗かった。あまり気持ちのいいものではなかった。
「なんか気味悪いですね」
私が言う。陽子と繁美は全く人の話を聞いていない。
すると、突風に近い風が左から右へ流れた。
「陽子さん、寒いですよ」
「えっ、何が?」
陽子と繁美は窓の傍にはいなかった。それに窓はすべて閉まっていた。
「今、風が吹きましたよね・・・・」
「風?」
「感じませんでした?」
「別に・・・・ねえ」
陽子は繁美に同意を求めた。
「そうね、何も感じなかったわね」
「突風みたいでしたよ」
「・・・・もしかして・・・・」
陽子の目が鋭く光った。
“バタン!!”
入ってきたドア急に閉まった。
みんな驚いてドアのほうを見る。
“ガタッ”
今度はパイプ椅子が倒れた。よく眼をこらし見てみるとそこに一人の女の子がいた。
「あなた、いつからそこに?」
さすが部長の陽子、素早く第一声を放つ。
「こんな小さなガラス玉見ませんでした?」
「人の話を聞いてないわね、この子」
「いろんな色が混じってるきれいな玉なんです」
「あなた、名前は?」
「私は、赤松ひじり」
「それって・・・・」
繁美は誰だかすぐにわかった。
「神隠しにあった生徒・・・・」
「えええええええええええええ」
私は普通に驚いてしまった。
「やはりね」
陽子は気づいていたみたいだった。
そこに真澄が入ってきた。
「失礼、遅くなりました。それよりもこれ綺麗だと思いませんか」
状況を把握してない。いや、把握しようとしていない。
それも真澄のある意味いいところなのだとおもう。
「何?・・・・ビー玉?」
「そこで拾ったんだんですけど、こんなビー玉はじめてみました」
なぜかはしゃいでいるようにもみえた。
「このビー玉の中に小さな靴が入っているのよ」
「どれどれ・・・・本当だ。かわいい」
するとそのビー玉を横から奪ったものがいた。ひじりだ。
「ありがとう。これを捜していたの・・・・」
「えっ、なに、なに・・・・」
状況を把握していない真澄がみんなの顔を覗き込む。
「ありがとう・・・・」
「あれがガラスの靴だったんだ」
「だねっ」
また突風が吹いた。
「きゃっ!」
叫び声をあげてしゃがみ込んでしまった。
私達が目をあけると、そこにはもうひじりの姿はなかった。
「あれって、霊ですか?」
「わかんない・・・・」
「霊だったら、ビー玉は持っていけない」
「じゃ・・・・なんなんですか?」
「神隠し・・・・」
「まだまだ不思議がいっぱいですわね」
真澄の言葉に少し救われたような気がした。

つづく